ただ単に遅行しそうになった事を長ったらしく実況しながらブログにしただけの記事。
私は部屋でくつろぎながら横たわってテレビを眺めて「悪の経典とか見たら世界観に洗脳されてダウナーな気分になるなー。」と先ほどアマゾンプライムで見た映画の感想を考えていた。
気づくと時刻は18時35分。
19時にお店の鍵を開けるのだが、スタッフにお店の開店を任せているので打ち合わせ等予定がない日は19時過ぎに出勤するようにしている。
今から出れば19時20分くらいには店に着くだろう。
念のためオープン準備のスタッフのシフトを確認して見た。
そして私は気づいた。
「今日お店を開けるのは私だ。」
勘違いしていた。
いつも開けてくれるスタッフではなく今日は私が開店する日だったのだ。
私は急いで黒いデニムと黒いコートを羽織り、家を飛び出した。
よく見たら中に来ているインナーも靴も黒だ。
これではほぼメンインブラックだ。
だがそんな事は気にしていられない。猛ダッシュだ。遅刻してはいけないのだ。
19時に間に合わなかったところでお店は20時オープンだ。
19時過ぎても営業には問題ない。なのになぜ猛ダッシュしているのか。
それはうちの店には「遅刻の罰ゲーム」が存在するからだ。
本来なら遅刻した者は怒られる。というのが社会の常識だろう。
けれど我が店には、「ピリピリしたくない。出来るならなんでも笑って解決したい。という理念」の元、特別な「遅刻の罰ゲーム」が設定されている。
それは「全力のギャグ」だ。
遅刻したら「全力のギャグ」をしなければならないのだ。
以前ドラムの男の子が遅刻した時この罰ゲームが発動した。
それはもう想像を絶する地獄だった。
バンカラを擁する梅田界隈が凍りつくような地獄の空気だった。
ドラマーには悪いがはっきり言おう。あの「スプーンの丸い部分をウルトラマンの目に見立てて隠し、「シュワッチ!」というだけのギャグ」はめちゃくちゃ滑っていた。
そんな地獄を味わうわけには行かない。
しかしドラマーがギャグしてスベルくらいならまだいい。
私はスベルわけには行かない。
私は「お笑い芸人」として12年もの間プロの舞台で凌ぎを削っていたのだ。
そんな私の発する全力のギャグがスベッたらどうなる?
スタッフの見る目が変わるに違いない。
少なくともスタッフは私を「少しはテレビに出た事のある面白い兄ちゃん」だと思っているだろう。
もしくは完全に「おばたのお兄さん」と思っているかもしれない。
そんなスタッフの前でギャグなんかしてスベッテみろ。
私を見る目は地に堕ちるだろう。
私を蔑んだ目で見るようになり、私の指示など全く聞かなくなる。
ホールスタッフは営業中もふて寝をかまし、
バンドメンバーはドラムセットのバスドラムをギターを棒のようにして器用に転がし、運動会のタイヤの枠部分を棒で転がす競技みたいにして遊び散らかすだろう。
最悪は今の総理大臣さながら、店長に解任要求を叩きつけ、豪華な生バンドの演奏で「辞めろ!」コールを奏でるかもしれない。
遅刻するわけには行かない。
走れ。
走るんだ。
私は最寄駅までなんとか到着し、電車に滑り込んだ。
あと14分で到着しなければ遅刻だ。
電車でバンカラの近くの駅まで6分。
そして駅からは800メートル。
残り8分で800メートル。
1分で100メートル進めば問題ない。
大人の男だ。それくらい容易なはず。
駅に着いて私は猛ダッシュした。
金曜日で飲みに行くであろうサラリーマン達をかき分けバンカラまでひたすら走った。
しかし日頃甘やかしまくった私のわがままボディはなかなか進んでくれない。
息切れしながらなんとか足を上げる。一歩ずつ進んで行く。
もう少しでバンカラだ。
しかし私の目の前に悪魔が佇んでいた。
歩道橋だ。
こんなにヘトヘトの私に階段で上がる事を迫るなんて悪魔の所業。
ヘロヘロの私をあざ笑うかのように歩道橋という名の悪魔がささやいてくる。
「遅刻しちまえよ。ギャグでスベったりしないよ。おまえはプロなんだからさ。」
私は悪魔の誘惑に負けて足を止めそうになった。
このまま歩いて遅刻してやろうか。
ギャグしてもいけるんじゃないか。
誘惑に負けそうになる。
・・・・・いや。無理だ。
ギャグをしてはならない。
なぜなら私のギャグは一ミリも面白くないからだ。
私は12年のプロ生活でただの一度もギャグでうけた事がない。
自信を持って言える。
私のギャグは面白くない!!!!
「私のギャグは面白くないという強い自覚」が再び重たい足を動かした。
全力疾走で歩道橋を渡りきり、バンカラへ全力疾走した!
なんとか息絶え絶えにバンカラへ到着した。
時刻は18時59分。
ギャグはせずに済んだ。
私はスベりたくない一心で、なんとか時間内にバンカラにスベり込んだのだ。